骨酒06|山菜とイワナ
「蕗(ふき)のとう」ということばは知っていたが、見たことはなかった。
春、4月、信濃大町から美麻(みあさ)村の峠を越えて、善光寺平(長野市方面)へ抜けたことがあった。クルマの中で気骨ある地元出身のK法人課長が「ちょっとクルマを止めて」といってTドライバーにクルマを止めさせみんなで車外へ出た。峠道のまわりを見渡すと山の斜面に、家と畑がポツリポツリとあるだけで、山里の村を絵に描いたような風景だった。K課長は道端を指差して「蕗のとうがもうこんなに大きくのびてしまった」というが恥ずかしながらどれが蕗のとうかわからない。K課長が靴をドロドロにして10コくらい蕗のとうを取って「帰ったら蕗ミソにして食べてください」と渡してくれた。
蕗ミソとは、細かくきざんだ蕗のとうとミソと酒と少々の砂糖を入れて炒めたものであり、ご飯にのせたら最高。
「わさび(山葵)の花」をご存じだろうか。安曇野に大王わさび農園という観光地があるが、一度くらいは行ったことがあると思う。四月末になると、このわさび農園や街中の八百屋さんで「わさびの花」を売り出す。われわれがすりおろして食べるのがわさびの根だとすれば、その上に茎があり、その上に花が咲く。
わさびの花を、3センチくらいにザクザクと切り、タッパに入れて熱湯を注ぎ、フタをして2~3分間おく。取り出して水を絞り、カツオブシと醤油を少々かけておひたし風にするとビールのツマミに最高。
「タラの芽」は、正確には「タラの木の新芽」のことであり、山菜の王様といわれている。
イワナ釣りにけっこう山奥まで行くが、天然のタラの芽はほとんど取れない。今日では大変貴重品になったタラの芽のありかは、マツタケと同じように、他人には教えないのである。その場所を知っている人は、シーズンになるとソッと取りに行くのではないかとさえ思う。一般の人がクルマでは入れない林道の奥も、地元で山仕事をやる人や、ダム工事をやる人は通行証を持っている。もっとも、地元の人から見れば、よそ者のわれわれが山菜取りに行くのは迷惑な話なのかもしれない。
タラの芽は、1シーズンに2回は芽を摘んでよいとされているが、それ以上は摘むと木が枯れてしまう。
タラの芽取りで、われわれ素人が間違えやすいのが、ウルシの木である。ゴルフ場のリフトから外の斜面を見て「タラの芽」がある、といっているのはほとんどがウルシの木である。毎日何百人もの人が見ている場所に、山菜の王様が残っているはずがない。
幹のトゲといい、葉といい、そっくりだから無理はない。
タラの芽はやはりテンプラが一番である。
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