骨酒05|「平の小屋」へは、とうとう行かれず

今西資博(よしひろ)さんという、アウトドアのプロが書いた「平の小屋物語」という本がある。サブタイトルは’秘境黒部の職漁師三代記・黒部の自然とイワナよ永遠に’。

「平の小屋」は、黒部ダムでできた黒部湖の上流部にある。黒部アルペンルートで黒部ダムへ行ったことのある方は、あのダムサイトから徒歩4時間のところだと想像願いたい。

小屋の主は、一代目佐伯覚英(かくえい)、二代目覚秀(さとひで)、現在三代目の覚憲(さとのり)。三代目覚憲は、人生の一時期、富山で暴走族をやっていたが、かつて、小屋の常連客だった名古屋の大学教授の娘を嫁にもらい、現在は、三代目として小屋を経営している。

この「平の小屋物語」の中には、黒部の天然イワナについての話が、いやというほど出てくる。

昔は、沢で顔を洗おうと、水に手を入れたら手がイワナに当たって水をすくえなかった、とか、黒部湖で釣ってきた1メートルの大イワナを庭の池で飼っていたが、ある暴風雨の夜に池から逃げ出して湖にもどってしまったなど。

この「平の小屋」へ一度は行こう、と思い続けていた。

当時、時間がない訳でもなかったが、黒部ダムサイトから4時間の歩きには少々自信がなかった。

ある時、大町営業所の臨店の帰りに黒部ダムへ寄ったが、そのとき、展望台のガイドのおじさんに「平の小屋というのがあると思うけど、行ったらいつでも泊まれるんですか」と聞いたら、「はい、山小屋はいつでも誰でも泊まれるけど、あの本が出てから最近たくさん人が行くそうだよ」といわれて少々がっかりした。

今では、沢に手を入れたらイワナにぶつかるほどウヨウヨいるとは思わないし、1メートルの大イワナがいるとも思わないが、やはり、一度は秘境黒部でイワナ釣りがしてみたいという望みは捨てたわけではなかった。

その後、TVの釣り番組でこの平の小屋が放映されていた。三代目の覚憲さんが、一斗カンを背にゴムぞうりをはいた例の姿で、フィッシングキャスターの西山某を案内している。雨が降っており、釣果は決してよくない。15~20センチ程度が数匹。

「きょうは、どうも状態がよくないネ」と覚憲さんが西山キャスターに言っている。

黒部ダムのガイドのおじさんの話、そもそもTVのフィッシング番組に平の小屋が出てきてしまったこと―――。

もう、平の小屋やその周辺の沢も、私が勝手に想像しているよりも、ずっと俗化されているのかもしれない。「平の小屋」へは、元巨人軍の川上監督、藤田監督も行っている。

私も一度は訪れたかった「平の小屋」であった。

トーク・パル 加藤隆夫の趣味と雑記の『五感を震わす快楽』

トーク・パル株式会社代表取締役社長の加藤隆夫とその仲間が趣味や雑記を綴るサイトです。

0コメント

  • 1000 / 1000