屋台のてんぷら蕎麦屋

期待させるレストランというのは、無駄のない仕草の中に気を感じさせるような料理人がいるところで、その存在が自分の視界に入っている場合だ、と言うような意味のことを料理評論家のY氏から伺ったことがある。

以前、そのY氏オススメの屋台のてんぷら蕎麦屋に一緒に食べに行った事がある。

今月いっぱいで屋台を閉めてしまうので、なくなる前にみんなで食べに行こうという事であった。屋台が繁盛したので、どこかに店を構えることになったようだ。

Y氏と元モデルのU氏と有名な料理学校長のH氏と広尾のレストランひらまつで待ち合わせをした。

レストランひらまつは、画廊の2階にある。

H氏は、少し遅れてやってきて、どうしても抜けられない仕事が出来てしまったので、蕎麦には付き合えなくなってしまった、と申し訳なさそうに詫びていた。

オーナーの平松氏がしなやかな仕草と満面の笑みを浮かべて我々に挨拶に来られた。

Y氏は、今日は屋台のてんぷら蕎麦を食べに行くので、軽いつまみだけでお願いします、と言い、シャンパンを注文した。

我々は、40分ぐらいレストランひらまつにいて、目的の屋台のてんぷら蕎麦屋に向けて車を走らせた。

てんぷらをその場で揚げて、蕎麦を食べさせる屋台の店などと高度なのは、博多ならありそうだが、東京では見たことが無かった。

クルマは、246号から環8に入り、砧公園へ左折した。

あった!あったぞ!

薄暗い路上にはクルマが点在し、公園の脇に大きな屋台の裸電球のともし火が周りを照らし、人だかりの影が風にゆれている。

その屋台では、威勢のよさそうなおじさんが、油をなみなみと入れた、大きな中華なべに衣をつけた海老や野菜を次から次へと放り込んでいる。

かと思うと、ドンブリを湯で暖めたその中に、釜の中の蕎麦をすくい上げ放り込む。

つゆを入れる。

ボコボコと油の中で泳いでいる頃合の良いてんぷらをすくいあげ、蕎麦の中に盛り付け、薬味を添える。

いっちょうあがりだ。

ひっきりなしの客だまりを消化すべく、すごい流れ作業をおじさんは一人でやってのける。

まさに、見ているだけで美味しそうだ。確かに味わいの中には、目の前で料理人が手さばき鮮やかに調理する姿や雰囲気という要素が占める割合の多い事を教えられた。

今は幻の屋台のてんぷら蕎麦屋でした。

トーク・パル 加藤隆夫の趣味と雑記の『五感を震わす快楽』

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