骨酒03|尺イワナが釣れた

イワナは十五センチ以下は放流することになっている。

イワナ釣りについてのルールを少し話そう。

残念ながら、今では,黒部の源流など山奥の川でないかぎり、天然のイワナは少ない。

ほとんどの川に漁協があり、イワナも養殖した成魚や稚魚を放流している。

したがって、イワナ釣りはタダではない。

川(漁協)によって差はあるが、日釣券五〇〇円から七〇〇円、年券三〇〇〇円から五〇〇〇円の釣券を釣道具屋か現地の雑貨屋などで買わなければならない。

入漁券なしで釣っているところを漁協の監視員に見つかると、その場で倍額の日釣券を買わされることになる。

一年間でイワナ釣りができるシーズンは、漁協により、二月中旬から九月中旬、または、三月中旬から一〇月中旬の約半年間だけであり、秋から春にかけては禁漁になる。

イワナのエサは,地方や川で異なるが、どこでも万能なエサは、その川で採取した川虫、市販のエサでは、ブドウムシ、ミミズなどである。

イワナは獰猛な魚だから、トンボやバッタでも食う、というのでこれを針につけて何度かやったが釣れた試しがない。

また、最近ではテンカラ(毛バリ釣り)もはやっている。

さて、「尺イワナ」とは、放流サイズとは逆に三〇センチを超す大物のことを言う。

今では、私を含めてイワナ釣り愛好家が増えて、尺イワナはほとんど夢に近い。

そんな「尺イワナ」を釣った話をしたい。

平成四年六月十四日。

松本のTさんと穂高町の鳥川へ行った。

残念ながら常念岳の麓の源流ではなく、標高八〇〇メートルぐらいにある安曇野の穂高カントリークラブ近くの須砂渡渓谷である。

ここの鳥川に堰がある。深さ五メートルはあろうかという堰で、われわれは「プール」と呼んでいた。

Tさんが、この堰の下段で釣っており、私が上段で釣っていた。上段で釣っていた私は、仕掛けを水中に入れたまま、下段へ降りようと、「Tさん、竿持ってて」と、私の竿をTさんに預け足場の悪いガケを下段に降りた。

「ありがと」と言って、私の竿をTさんから返してもらい、二・三歩歩いて足場を決めた途端に水中から大きな魚影がスーと浮かび上がってきた。

「釣れてる」とTさん。

何と釣れていたのである。

釣り上げた途端に、針が外れた。

大きい。

今まで見たこともないイワナだ。

針から外れたイワナを必死で両足のウエーダーではさみつけた。

心臓がドキドキ鼓動している。

魚をつかむと、親指と中指が胴体をつかみきれずに余ってしまう。

暴れる力がケタ違いに強い。

「尺イワナだ!」

---------さて、このイワナは、Tさんが私の竿を預かっていた間に掛かったのか、私が竿を受け取ってから掛かったのか。

謙虚なTさんは、今も、このイワナは私が釣った、と言ってくれている。

喜び勇んで家にもどり、まず、写真を撮る。横に三〇センチの定規を置いたが、その定規をゆうに二センチオーバーしている尺イワナだ。

B四の半紙を買ってきて、魚拓をとったが、どうもタテ・ヨコのバランスが悪い。

改めて、巻紙の障子紙を買ってきて魚拓をとり直した。

魚拓、五枚。

写真も、五枚原寸に焼増し。

これらの魚拓、写真は、今でも横浜のわが家の居間と、名古屋の社宅(当時)に誇らしげに飾られている。

名古屋へ来てしばらくたったとき、松本から電話があり、尺イワナが釣れたのでFAXするという。

見ると大きい。私の記録を破られた。

しかし、よく見るとこのイワナ、体長の割に異常に「眼」が大きい。

あとで聞くと、このFAX、二〇センチのイワナの魚拓を二〇〇%の拡大コピーにかけたあと、FAXしたのだという。


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